キャリアの視界を開こう

Date2026/08/03

先日、こんな本を読んだ。
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まだ最初の方しか読めていないけれど、自分のキャリアを考え直すという点で非常に良い本に巡り合えたと思った。
私はこのところ、目の前に見えているキャリアを選び取ることしかやってこなかったからだ。俯瞰したとき、自分はどこにいるのだろうか。

キャリアは管理職だけじゃない

前の職場でこんなやりとりがあった。
「技術職のキャリアラダーを用意してはどうか」
「それは管理職をやりたくない技術者の言い訳に過ぎないんじゃないか?」

キャリアについてよく理解していなかった私にとっては、「鋭い指摘で生涯エンジニアへの道が危ういな……」なんて呑気に聞いていた。
それでもめげずにエンジニア側が説得を重ね、なんとかエンジニア専用のキャリアラダーを追加することになったらしい。
けれど、昇進の承認フローの上にいる上役がそのラダーの詳細を把握しきれておらず、結局は給与を表すだけのほとんど意味のない肩書になってしまったそうだ。

いま思い返すと、エンジニアのキャリアラダーを用意したいと提案した人は、あまりにも素晴らしい。
本来は管理職しか昇進の余地がない会社に、エンジニア専用の指標を追加したのだ。エンジニアにもう一つのキャリアパスが増えたといっても過言ではない。
「技術者の言い訳」という反論がむしろ的外れであり、良い技術者がどのようなスキルセットであるかを知らないが故の思い付きであったとわかった。   しかしながら、現実はなかなかうまくいかず残念であった。そもそも技術者が成長していくとどうなるか、技術者を数年やった私ですら把握できていなかったのだから。

そんな出来事から数年、私はついにソフトウェアエンジニアのキャリアパスについて、ふらっと立ち寄った神保町の書店で知ることになった。
現在の会社に入ったときから「君は係長への昇進を目指しなさい」と言われ、再び管理職しか視界に入らなくなっていた自分にとって、まさに目の覚めるような提案だった。
正しいエンジニアとしての成長を、もう一度問い直してみたいと思った。

「一人で何でもできる人」がもてはやされる先は

実際にそう言われたわけではないが、仕事の流れはまさにその一点を指していた。
プロジェクトを担当すると、一人の教育担当が付く。その人はプロジェクトのことをよく知らないが、とりあえずスケジュールの管理監督をしている。
やがていくつかのプロジェクトをこなすと「一人立ち」を促される。つまるところ、単独でプロジェクトをこなすことを「成長」と定義しているのだ。

私は実際に、複数の案件を一人でこなしている。立ち上げから運用まで。自分がいないと回らないし、共有する相手も時間もない。
けれどそれを続けるほどに「君はよくやっている。成長したね」と声をかけられ、次の案件に参画させられる。
私たちにとっての属人化は、問題と思いながらも一種のステータスでもあった。どれだけ多くの案件の質問に回答できるかが、すなわち成果であった。

そして私は役職の昇進を促される。
「より多くの権限を持ち、より多くのチームと連携し、より多くの案件を一人で回せること。」
それが昇進した後に待っている姿であった。私は今の忙しさが倍増するのだと思うと、目が回るような気持ちだった。
きっと素晴らしい人は、多くの案件を自動化し、AIを巧みに使いこなし、あらゆる知見に長けているからこそ、一つの案件に割くコストが少ないのだ。そう思った。
私は「何でも屋」から、「スーパー何でも屋」に進化しようとしていた。その先に待っているのは……「ウルトラ何でも屋」……?

分からなくなった私は、求人を見つめることにした。この仕事量は適切で、より多い年収を求める人はより多い仕事をやっているのか?
すると、求人は的外れなことばっかり書いている。「アーキテクチャに関する知識」「大規模なシステム改修の経験」「CI/CDのフロー構築」……。
そんなの、“客が求めていないじゃないか"と思った。私が学んできたのは、「雑でも早く形にする。なんとかする」だ。良いコードだか何だか知らないが、金にならない高等技術を身につけるのが、年収をあげる秘訣なのか。そんな馬鹿な。いったいそのお金はどこから出ているっていうんだ。不動産の収入で儲かっているのか。

少し誇張もしているが、割と毎日のように私が言われていることでもある。
エンジニアはコストセンターである。いくら費用を削減するかがカギだ。セキュリティなんていかに最低限で済むところを見つけるかが大事で、保守性よりも動くコードだ。そもそも一人で回すんだから、他人が読めるように工夫したり、ドキュメントをわざわざまとめる時間を取るなんて馬鹿げているって。
そうやってずっと教わってきた。だから私が昇進したら、私に給料を払ってくれる以上に私はコストを削減しないといけない。

エンジニアとして、本当はいいものを作りたい。でもそれは趣味の世界だと諭されたら、なんとも私には打開策が見えない。
職業エンジニアと趣味のエンジニアは違う世界で、いいものを作っていいのは、たまたま製品がヒットした自社開発企業だけで……。
自分の知っている世界の中だけで考えているだけでは、どうしても抜け出せなかった。どうしても、コストセンター脳から抜けられなかった。
そしてそれが、一人で何でもできる人が向かう、ただ一つの破滅ルートだということにも気付けなかった。

本当の成長とは

私がいま置かれている環境において、私はたしかに「成長」している。
例えば、独立してフリーの道を歩んでいきたいのなら正解かもしれない。おおよそは受託開発で、スピード勝負になるなら独壇場だからだ。
けれど、進んでいる方向がもし間違っているのだとしたら、ちょっと道を修正してやらねばいけない。
もしエンジニアとして「利益を生む」という方向に行ってみたいのならば……。

良いサービスには、多数の顧客がいる。そして彼らが望むもののサンプルは多く、起こしたアクションに対するフィードバックも多い。
そんな中でエンジニアとして「サービスの改善」をすることが重要な任務になる瞬間がある。
大きなサービスは、それだけ人手を必要とする。チームを束ねる必要がある。皆が同じ方向を向いて、プロジェクトを進める必要がある。
そんな時に、最も技術的に良いとされる知識を持ち、そして自分以外の人を同じくらいの能力に引き上げる仕組みを作れる人は一番強い。
もしそういう存在になりたいのだとしたら、今いる環境のうちに身につけられるものは、どこまで身についただろうか。
吸収しきってしまったというのなら、引き際を考えるべきかもしれないし、それでも向かう先が間違っていないのだというのなら、本当に向かいたい先へもう一歩踏み出してみるべきだろう。

今の状態は、たしかに受託をすることによって一人でできる最大限の利益をもたらしているかもしれない。
けれど、それなら向かう先は「自分のために利益をもたらす」か、「チームを動かしてもっと大きな利益をもたらす」か、もしくは「もっと利益の大きい場所へ行く」か。
常に現状に対する俯瞰した目線が必要だと思った。見かけ倒しや、身近な人の甘言ではなくて、正しいキャリアを見つめたい。